ブックレビュー|橋本忍『複眼の映像―私と黒澤明』

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自分の好きな日本映画は尽く橋本忍脚本が多い。『砂の器』『天国と地獄』『七人の侍』『白い巨塔』などなど。枚挙に暇がない。
骨太な筋でぐいぐい押していく橋本脚本は、魅了してやまない映画の麻薬だ。

そうした橋本が書いた「回想録」ともいえるこの本で最大の重きを置いているのが黒澤明との関わりあいについてだ。これは最も油の乗っていたクロサワがどのようにして脚本を創っていったのかを語る貴重な一級資料でもあると思う。
黒澤映画に関してはドナルド・リチー著の研究書『黒澤明の映画』があり自分も大いに影響を受けたが、あくまでも映画の技法に関しての掘り下げであり、それはまた研究という限界でもあると思う。それに対して本書はどのようなアプローチと苦難を経て作品が出来ていったのか、その過程を現場に居た脚本が自身の筆により詳らかにしてくれる。今後の黒澤映画研究の上での超一級の資料だと思う。

あの大失敗作『幻の湖』に関してもさらりと書かれているが、監督も務めた当人が「この脚本は出来が悪い」と自覚していたということが正直に書かれていたのには目からウロコだった。

…でも、個人的には『幻の湖』は好きなんだよなあ。奇天烈な展開で珍作なのは重々承知であえて言うけど。

幻の湖[東宝DVD名作セレクション]幻の湖[東宝DVD名作セレクション]

断っておくが、理由は断じてヘンテコリンなカルト作ということではない。
あくまでも、それでも魅力がある、と筆者は思う。思っているから魅力を感じ、愛してやまぬ一作として『幻の湖』を推す。

 

映画というメディアはつくづく”監督の脳内イメージの視覚化”だと思う。そういう意味では、あの『幻の湖』こそが橋本忍の脳内VRそのものなんだろうな。
[2016/07/01読了]

 

 

複眼の映像―私と黒澤明 (文春文庫)
複眼の映像―私と黒澤明 (文春文庫)


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